60人で地球の裏側へ向かったバンド

60人で地球の裏側へ向かったバンド

2016年7月12日
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8分間の演奏のため、60人で地球の裏・トリニダード・トバゴへ———

昨年、一見無謀にも思える目標を掲げ、クラウドファンディングを実施。そして見事に目標を達成させた1組のバンドがいた。スティールパン奏者・原田 芳宏氏が率いる、Panorama Steel Orchestra(パノラマスティールオーケストラ)というスティールパン・バンドだ。しかも彼らは、ただ海を渡って演奏しただけではなく、現地で行われたスティールパンの世界大会「International Conference and Panorama」で見事9位に入賞。日本人として大きな功績を残すという“お土産付き”で帰国し、話題を呼んだのである。

「トリニダード何とかって言われてもどこにあるかわからない」「そもそもスティールパンって何?」という読者も少なくない気がするので、まずは簡単に説明しよう。トリニダード・トバゴ(正式名称はトリニダード・トバゴ共和国。以下、トリニダード)とは、カリブ諸島の最南端に位置する千葉県くらいの面積の国。そして、1930年代にこの国で誕生したのが、ドラム缶で作られた旋律打楽器、スティールパンだ。同国の国民的楽器として、あるいは「20世紀最後のアコースティック楽器」として知られ、近年メディアや作品を通して一般的になりつつあるので、楽器を見たりその音色を聴いたりすればわかる、という人もいるかもしれない。

そして、日本におけるスティールパン・プレイヤーの草分け的存在として知られるのが、前述の原田氏というわけだ。クラウドファンディングを使ってトリニダードへの切符を手に入れ、自らが率いるバンドを世界大会入賞に導いた同氏と、バンドメンバーである柏崎 美緒さんに話を伺う機会を得られたので、この記事でその内容を紹介していきたい。地上の楽園・カリブ海で生まれた楽器の魅力、独自のスタンスで歩みを続けるPanorama Steel Orchestraというバンドの話題とともに、クラウドファンディングの有用性なども窺い知ることができるだろう。


世界大会に出場した際のライブ映像

30人以上の大所帯バンド、パノラマスティールオーケストラ

—まずは、Panorama Steel Orchestra(以下、パノラマ)についてご紹介頂けますか?

原田さん(以下、敬称略):パノラマは98年に結成されたプロ・アマ混合の楽団で、今は全国に30人以上のメンバーがいます。大学生から50代位までと年齢層もバラバラです。

—今回の世界大会には60人で向かったんですよね?

原田:大会にはメンバー40人以上でないと参加できないって条件があったので、募集をかけて総勢60人にまで増やしたんです。関東はもちろん、関西や中部からも応募がきてて、結構あっという間に(メンバーが)集まりました。

—そうだったんですね。では、そもそものバンド結成のきっかけを伺ってもいいですか?

原田:僕は80年代にパン(スティールパンのこと)と出会って、90年代にはスティールパン奏者として「PAN CAKE」というバンドでデビューしてるんです。当時は周りにパンやっている人なんて全くいなかったから独学でやってきたけど、楽器に関してはほとんどマスターしてたし腕に自信はあリました。けど、やっぱり一度本場でちゃんと勉強してみたいっていう思いがあって、トリニダードに行くことにしたんです。実際向こうに行って衝撃的だったのは、プロもアマチュアも関係なく、街にいる老若男女、様々な人たちが至るところでパンをやってるってことでした。で、自分も現地で生活し演奏するうちに、人との関わり方とか価値観が変わってきて、自分の音楽を見つめ直すことができたんです。それまでアマチュアの方と演奏する機会ってほとんどなかったけど、日本に帰ってきてからスタンスがガラッと変わりました。そうしてアマチュアの方とも一緒にやるようになって誕生したのが、パノラマなんです。

—なるほど。ちなみに柏崎さんはいつからメンバーに?

柏崎さん(以下、敬称略):私自身はスティールパン歴7年位なんですが、地元・栃木にいる頃から原田さんとパノラマは憧れの存在でした。バンドの映像を見て以来、すっかり触発されてしまってたので、(バンドに)入れた時は嬉しかったです! 曲が多くて覚えるのは大変でしたけどね。パンには一度ハマったら抜けられない魅力があるんですよ。

世界大会への道のり

—今回参加された世界大会に向けて、新メンバーのオーディションとか練習とか大変じゃなかったですか?

原田:オーディションはしなかったんです。中には触ったことのない初心者の方もいましたけど、パノラマ自体が誰でも参加できるスタンスでやってるんで全く問題じゃなかったです。今回は小学生2〜3年の子供も参加してたんで、ものすごい年齢差はできましたけど(笑)。

柏崎:練習に関しては、さすがに全員集まれないので、公共施設とかを借りて集まれるメンバーだけで行なったり、ソプラノやアルトといったパートごとに分かれて行うパート練習を行なったり。ちなみに大会には、バンドメンバーの25%は現地のトリニダード人を使ってもいいってルールがあって、いわゆる現地調達もOKだったんです。でも私たちは入賞チームの中では唯一、オリジナルのメンバーだけで演奏することができました。正確に言うと中には外国人もいましたけど、元日本在住でメンバーだった方なのでセーフです(笑)。

—現地調達OKなんてルールもあるんですね(笑)。ちなみに今回、大会への参加を決めた経緯は?

原田:本当は2013年にトリニダードから、その翌年開催予定だった世界大会への招待状が届いてたんです。だけどその時は開催延期になってしまって……。で、今回ようやく第一回目となる世界大会が開催されることが決まったので、迷わず応募を決めました。

—それまで世界大会がなかったというのは意外ですね。

原田:長い間、パンでトリニダードに対抗できる国がなかったんですよ。だから競っても仕方がないってことで、大会自体が存在してなくて。でもここ数年で世代交代が行われて海外にも面白いチームがたくさん出てきたので、満を持して世界大会をやろうという流れになったみたいですね。確かにこの20年くらいで随分とパンを取り巻く状況は変わったと思います。

—大会に出場、入賞してみてどうでした?

原田:残念ながら日本ではそこまで大きな反応はなかったんですが、トリニダードでは新聞とか色々なメディアに掲載してもらえて、ものすごい反響がありました。演奏はもちろんだけど、曲のアレンジとかオリジナリティとか、そういったもの含めて、僕らの音楽を本当に気に入ってもらえたんだと思います。日本人で世界10本の指に入るバンドになれたというのは嬉しいですね。

—日本人として誇らしいことですよね。改めておめでとうございます!

はじめてのクラウドファンディング

—BOOSTARではクラウドファンディングに関する記事なども取り上げているのですが、今回原田さんがクラウドファンディングを利用した経緯等についても教えて頂けますか?

原田:メンバーも多いし、大会開催がお盆のタイミングだったから旅費がとにかく高くて。どうしようかと悩んでいたところに、僕らのプロジェクトにもすごく協力してくれた、お付き合いのある音楽事務所の方が、クラウドファンディングを薦めてくれたんです。はじめての利用だったので手探りでしたけど、うまくいって本当に良かった。おかげさまでというか、本当に感謝しかないですね!

—集まった金額は目標額を上回っていたし、大成功ですよね。

原田:早い段階で飛行機のチケットを押さえないといけなかったから、たとえお金が集まらなくても行こうとは決めてました。と言いつつ、もちろん焦りはあって。実は目標額に達成したのって、現地にいる間だったんですよ。本番1日前くらいにそれが判明して、皆で「よっしゃー!! 」ってすごく盛り上がりました(笑)。

—ものすごい滑り込みセーフでの達成だったんですね。そりゃもう、本番前にテンションあがったことでしょう(笑)。 60人でトリニダードに行っただけでもすごいけど、その結果、大会入賞できたわけだから最高ですね!

お金だけじゃない、クラウドファンディングのメリット

原田:海外のバンドってスポンサーがついてたり専用の練習場所があったり、結構恵まれた環境で活動してることが多いんです。僕らのバンドもそこそこ歴史はあるんだけど、まあ、貧乏バンドだし恵まれた環境にはいないわけですよ(笑)。だからこそ今回クラウドファンディングでたくさんの方々に寄付金や激励のコメントを頂けたこと、何よりこんなに応援してくれる人たちがいるんだって知れたことが本当に嬉しかったです。恵まれてないなんて言いつつも結局は色々な人たちに支えられてるんだって、そういう実感を持てたのはすごく大きかった。やっぱり人間は祝福されないとダメですね。色々な人と気持ちの交流ができたし、やって本当に良かったです。

—応援してくれる人との繋がりを確認できる、という大きな利点もあったわけですね。

柏崎:“リターン”として、一定額以上寄付してくれた人たち限定の凱旋ライブや、サポートしてくれた人への報告会を開催したんですけど、実際に寄付してくれた人と会って触れ合うことができて嬉しかったです。ものすごく暖かい時間を過ごせました。

原田:本当に僕ら、8分間のために数ヶ月間捧げてきましたからね。それが無事に達成できて、サポートしてくださった方々に会って直接御礼が言えるなんて、本当に貴重で素晴らしい経験です。

—今後の活動においても、またクラウドファンディングを活用してみたいですか?

原田:折を見て是非やりたいと思っています。そしてとにかくライブをどんどんやって、色々な人たちと触れ合いたい。パンの演奏を聞いてくれるお客さんの顔って、夢見てるみたいにキラキラしてて、すごく楽しんでくれてるのがわかるんです。これからも色々なところでライブをやって、世の中に夢みたいなことを増やしていきたいですね。

スティールパンの音色はけっこう衝撃的だ。一聴しただけで、キラキラした楽園みたいな場所に瞬間移動させられてしまうんだから。楽器そのものが持つ魅力というのももちろんあるけど、大編成のバンドが織り成す躍動感溢れるサウンド、心地よい倍音のシャワー、そして圧倒的な音世界に全身を包まれるのは格別。是非生で体感することをオススメしたい(パノラマは、8月に行う9年ぶりの大阪公演をはじめ、この夏各地でライブを予定しているので是非チェックを!)。

また、今回2人の話を伺って、クラウドファンディングのメリットが資金調達だけでないことも改めて実感。支援者の存在を知れること(これは自分の目標やアイディアにどれ程多くの人たちが注目し賛同するかを知れる、絶好のマーケティング機会にもなる)、リターンという制度を活用して彼らと絆を深めていくこともできること。それらは全て、活動を続けていく上での大きなモチベーションとなるはずだ。一見無謀に思える目標であっても成功事例はいくらでもある。今更議論することでもないかもしれないが、やはりクラウドファンディングには、手間やリスクを考慮しても補って余るほどの魅力と可能性がありそうだ。まあ、少なくとも色々な人に夢を語り歩いているだけより、実現性は高くなるはず。「夢なんて見るもんじゃない、語るもんじゃない、叶えるものだから」……かの歌姫が歌った1フレーズがふと一瞬頭をよぎってしまった。

Panorama Steel Orchestra(パノラマスティールオーケストラ)

結成は1998年。スティールパンで地上の楽園を産み出す、日本が世界に誇るオーケストラであり、あらゆる感情をパンに乗せて解き放つスティールパンマスター、原田芳宏が率いる30人編成の楽団。プロ・アマあらゆる年齢・職業のメンバーで構成され、これまで数多くのスティールパン・バンドのリーダーも輩出してきた。2004年のCDデビュー以来、新垣勉、伊藤ふみお、畠山美由紀、saigenji など多彩なゲストアーティストを迎え、4枚のオリジナルアルバムをリリース。フジロックフェスティバル、朝霧ジャムなど大型フェスにも出演している。

オフィシャルサイト

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