映画にするか、コントにするか問題

映画にするか、コントにするか問題

2016年5月10日
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この記事は江本 珠理氏による寄稿である。江本氏は池袋から西武池袋線でひと駅、椎名町の旅館とミシンカフェ「シーナと一平」のおかみ。大学卒業後、メーカーに就職し、転勤で引っ越した東京都豊島区にて地域活動に携わったことをきっかけに、OLを辞めおかみになることを決断。おかみの連載「椎名町の女将奮闘記」のその他の記事はこちらから。

椎名町からこんにちは。最近めがねを新調しました!これは、新しいスタッフが入ってめがねを買いに行ける時間の余裕ができたということ。ありがとうございます!シーナと一平おかみのえもとです。

おかみ
お祝いのお花をたくさんいただきました!ありがとうございました。これは前のめがねです

はんびらきから、幕開けへ。

3/18大安に幕開け(=グランドオープン)してからは、めくるめく怒涛の日々、真っ最中です。早速海外のお客さまからご予約をいただいたり、満床の日が続いたり・・・。びっくりしたことは、いきなり英語を使う日々になったこと。もちろんちょっぴり妄想はしていたものの、椎名町で、毎日英語を話すことが、オープン直後から現実になるとは思いもしませんでした。こんな風に、東京のローカルなまちでも毎日地道に海外の方に触れられる仕事ってあるんだぜ!って、地域に住むこどもたちに胸張れるかも・・・と、テンション高めの春です。外国の旅人が頻繁にくる一方で小学生が宿題をしにくる。この愉快でアンバランスな両軸を守り抜くこと、それがわたしの仕事なのだなぁとじんわり実感しています。雨の日に暇してたら、突然近所の苔玉作家さんが苔玉を持って「別のマルシェで全然売れなくてさ!ここで売っていい?!」と現れ、土間でプチマルシェが始まったり、コントかい!と思うような出来事もしばしば。

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カフェの常連さん、4歳

さて”はんびらき”というトレーニング期間を経て、幕開けに至ったシーナと一平です。はんびらきは文字通り半分だけオープン。その間に、備品をもろもろ揃えていました。たとえば座布団カバー。たとえば、宿やトイレの案内表示。その他シーナと一平を飾っているもののほとんどは、いただきものだったり、ご近所にお住いの主婦のみなさま、ご宿泊のゲストさまにちくちくカタカタつくっていただいたり、アイデアをいただいたものなのです。シーナと一平をサポートしてくださっているみなさまに甘えに甘えまくり、”はんびらき”から卒業していったのです。そんな中でも予想外に盛り上がったのが、”コースター作り”でした。

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色とりどりのコースター。大きさも模様もぜんぶ違います!

たとえば、このおもて面の刺繍をお客さまが暇つぶしに刺し、別日にいらしたご近所のママが縫い合わせる。ママが刺繍したものを、娘が縫い合わせる。その逆もしかり、などなど。なんとも個性豊かなコースターが揃ったのです。はぎれはすべてわたしたちからの提供でしたが、こんなにも色とりどりのコースターができるなんて誰も考えていませんでした。そんなわけで、あらゆる方に「このコースターはですね、でへへ」とにやけながらご紹介させていただいていたのです。

わかちゃん(6歳)が作ったコースター、海を渡る。

その中でも、よく来てくださるママと、小学校1年生の娘さんがつくったコースターがわたしの一番のお気に入りでした。「これは、6歳の女の子がはじめて並縫いしたものなんです!」と鼻息荒く前のめりに紹介する逸品。なんとそのコースターを見たカナダからのゲストが「これは売っているの?わたし買うわ」と言って、とんとんとーーんとお買い上げいただくことに。わかちゃんがはじめて並縫いしたコースターは、太平洋を渡りカナダへ行くことになったのです。わかちゃんのコースター物語は、わかちゃんのパパママはもちろんのこと、常連さんにも大変によろこんでいただきました。そしてその度に言われたことがあります。

「こどもにコースター作らせて、売ればいいじゃん」
最初は、「たしかに。こどもたちにちゃんと商売を経験させるっていうことで、いいかもしれない!」とも思っていました。でも、あれれ、うーん。なんか違うぞ、と。なんだろうこの違和感は。

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思い返せばわたしはいつでも、お客さまから”驚き”をいただいてきました。「コースター刺繍するの夢中になっちゃった。たのしかったー!」にびっくり。「この布、かわいいんだけど、使うに使えず捨てられないからもらって!」にびっくり。「うちの息子がシーナに行きたい行きたいって言うんだよね〜」にびっくり。あ、そのワークショップしたいんだったらシーナと一平よりも、もっといい場所ありますよ、とわたしが言った台詞に対して「ううん、わたしたちはここが好きだから、ここでやりたいの」にびっくり。もちろん、先ほどの「このコースター、可愛いから、譲って!」にもびっくり。最近だと、「足つぼマッサージできるからやってあげるよ!」という事件も起きました。わたしたちが、「うーん、すみません!これやって、くれるかな!」とお願いしたことを、軽々と楽しみ・喜びに変えてしまう、みんな。わたしが「ああ、これ足りない、あれ足りない。こんなのサービスじゃない!」と地団駄踏んでいるその隙に、この場所を愛してくれる、みんな。なんで!こんなに足りないのに!なんで!と内心思いつつ、そのひとつひとつに、助けられ、勇気づけられています。最近、「ママを主役に!」だったり「子どもがたくさんいる画がいい」から、といってイベントが開催されるのをよく見ます。なまじ、わたしのご近所さんはワークショップを開催したり、ちょっとびっくりするくらいのアクセサリーを作ったりできる、”コンテンツ力”のあるひとびと。しかしながら、地域に生きるひとびとは、コンテンツではないのです。なにかに当てはめた「これやってください」を軽々と飛び越えるひとたちなのです。

映画をつくりたいんじゃない、コントを楽しみたい。

そんな”びっくり”や”予想外”が起こる条件、それはとってもシンプルです。ずばり、予想をしないこと。そう、当たり前です。大抵のパターンを予測して、起きうる化学反応を企画段階で描けちゃう賢いひとは、予想をします。だって、なんにも期待しないでびっくりした方が、おもしろくないですか?!筋書きのないアドリブ満載のコント、見たくないですか?!ただ、こどもやママやパパやじーちゃんばーちゃん。こんなに役者が揃ってて、整えられたロケ地=椎名町があれば、演出を計算しつくしたハッピーエンドな映画を撮影したいひとは、たくさんいるんです。こどもが作ったものを旅行客向けに売りたいひとも、それに感動するひともたくさんいるんでしょう。でもわたしには、ここで起こる愉快な出来事のすべてが、コントにしか見えない・・・。そして、いちお宿とカフェにできることといえば、ご近所の主婦のみんなやこどもたちが輝き、主役になれる舞台を用意すること、たったそれだけ。緻密な脚本はわたしには描けないし、きらきらした主役には、なってはいけません。わかちゃんのコースターが売れた。それは日々のコミュニケーションの積み重ねが生んだ、ひとつのコント。コントでしかないのです。おもしろがれたら、最高。その一瞬を慈しんだら、次のおもしろいことを全力で待ちたい。だからこれからも”こどもがつくったコースターを売る映画”をつくるつもりはありません。いらしてくださる方々と、笑い転げながら物語をつないでいきたいです。おかみのお話はまだまだ始まったばかり。次からはそんな、こまごまとした日常もレポートしていきます!

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