木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(前編)

木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(前編)

2016年4月28日
Facebook Twitter このエントリーをはてなブックマークに追加

ある転職サービスが行った調査によると現在、日本人の5人に1人は副業をしている状況らしい。ということは、この記事を読んでいる方の中にも副業している人、あるいは本業以外の時間を使って何かに挑戦している人は意外と少なくないはずだ。近年「副業禁止」ルールを撤廃する企業も増え、堂々と二足(あるいは三足とか四足)の草鞋(わらじ)を履いていると公言する人もちらほら。やりたいことをひとつに絞って全うしている人もいるし、止むを得ない事情で副業している人もいるんだろうけど、もしそうじゃないとしたら、いつ何が起きてもおかしくない時代、形はどうあれ自分のやりたいことに挑戦していきたい、と考えるのは至極健全な思考なんじゃないだろうか(かくいう筆者もそのクチ)。

今回インタビューを試みたのは、8年前、某オーディション番組への出演をきっかけにメジャーデビューを果たした、木山裕策氏。デビュー作「home」が大ヒットし、その年のNHK紅白歌合戦に初出場、一躍時のひととなった人物なので覚えている人も多いだろう。歌手として大成した彼のもうひとつの顔、それは広告関連企業の会社員だ。と、同時に4人の子供を持つ父親でもある。家庭を持ちながら歌手活動と会社員としての仕事を見事に両立させるタフさに感銘を受けるばかりだが、実は彼が歌手を目指すようになったのはデビューする少し前、甲状腺がんの手術を経た後のこと。デビューした後の話は前述の通りだが、彼がものすごい経験値の持ち主だということは間違いない。ちょうど6年ぶりのオリジナル・アルバム『F 守りたい君へ』をリリースした直後のタイミングで取材する機会を得られたので、色々話を伺ってみたいと思う。

普段はごく普通のサラリーマン

—もしかしてお仕事の帰りですか?(トレードマークのスーツ姿で登場した木山さんを見て、衣装なのかお仕事帰りなのか若干判断しづらかったので……)

そうなんです。今日は会社を早退してきました。ここ(取材会場)までは会社から電車1本で来れたので楽でした。

—お疲れさまです。今プロモーション活動などで非常にお忙しい時期だと思いますが、普段はどういう生活を送っているんですか?

平日は完全な会社員で、基本的には土日どちらかで歌の仕事をしてます。平日は朝8時45分位に出社して、残業含めて大体7〜8時には退社。家が遠くて1時間半位かかるので大体9時位に帰宅する感じで……ごく普通のサラリーマン生活を送ってます(笑)。

—お子さんももう大きいんですよね。長男はもう20歳だとか?

長男は大学生で今年成人式を迎えました。次男が高校生、三男が中学生、四男が小学生。彼らが大きくなったので色々な話ができるようになりましたよ。いつも家に帰ると妻と一緒に紅茶飲むんですが、ちょうどその時リビングに子供たちがいることが多いので、自然と会話する時間が生まれるんです。たまにテレビや映画を観たりして、結構遅くまで一緒に起きてることが多いですね。

—日頃からご家族との時間を大切にしているんですね。ちなみに、今お勤めの会社は木山さんの歌手活動に対して理解がある方ですか?

そうですね。たまに土日以外で活動をする時もあるんですが、有給や半休を使って仕事に支障を来たさない範囲でやってますし、だからこそ理解を得られているんだと思います。多くて月1〜2日位の休みを取ることがある位のペースなので、一般の会社員の方とそんなに変わらないんじゃないでしょうか。

—以前はもっと忙しい会社に務めていらっしゃったとか。

以前はいつも深夜にタクシーで帰宅する日々でした。子供たちが寝てる時間に帰ってきて翌朝もすぐ出勤しちゃうので、週末しか家族とちゃんと話せないって状況で。今は当時よりも早く家に帰れるし、彼らも夜遅くまで起きていられる年齢になってきたし、コミュニケーション取りやすい環境になってきましたね。

1年間だけの主夫生活

—「home」がヒットしたのってもう8年も前のことなんですよね。デビュー作が大ヒットして紅白出場……歌手を目指す人にとっては夢のようなサクセスストリーだと思うんですが、やはり環境や心境は変わったんじゃないでしょうか?

当時はあまり意識する暇もなく、あれよあれよという間に時が過ぎる感じで。でも環境はほとんど変わってないんですよ、ありがたいことに。家の中で僕の地位が上がったわけでもないですしね。しいて変わったことといえば、街を歩いてて声を掛けられるようになったことかな。仕事帰りの新橋で知らないおじさんに肩組まれたり(笑)。はじめはビックリしたけど、怖い思いや嫌な思いしたことは幸い1回もありません。心境の変化も実はそんなにないですね。

—歌手を本業にしようという選択肢は全然なかったのでしょうか?

うちの子供たち、すごくよく食べるんですよ。もし売れなくなったからって「ごめん、ちょっとご飯少なくなってもいい? 」とは言えない位(笑)。でも綺麗事でも何でもなくて、家族を犠牲にしてでも歌で成功する、っていう考えが僕の中にはそもそもなくて。僕は家族がいたから歌い始めたんです。子供たちに自分の声を残したいと思ったのがきっかけですし。デビューできて嬉しかったし歌は続けていきたいけど、そのせいで家族が不幸になるなら本末転倒。もちろん歌だけで養っていけたらいいけど、ちゃんと安定した仕事をやって限られた中で歌うのが、色々考えた上で僕にとってベストなスタイルなんです。……といいつつ、実は1年だけ主夫をやったことがあるんですけどね(笑)。

—え! どういうことですか?

僕が休職して妻が働くってスタイルに、1年間だけ挑戦してみたんです。僕自身、家で家事をしながら子育てするのに抵抗なかったし、妻も社会復帰して外で働きたいって考えてたので。……でも、やっぱり(妻の仕事の)ブランクもあったし難しかったですね。1年だけじゃ何とも言えないのかもしれないけど、結局はその間、将来のことを考えて精神的にも不安定になってしまったので止めました。僕にとっては、家族、会社、歌っていう三本柱が必要なんだって気がついたんです。

—トライしてみたことが素晴らしいです! 試してみた結果ならご自身も奥様も納得いきますよね。

■本当になりたかった職業を諦めたその後

—木山さんは元々歌手を目指していたわけではないんだとか?

元々シナリオライターになりたくて、学校にも通っていました。その学校で妻と出逢ったんです。20代の頃はずっと一緒に夢を目指してて、そのことしか頭になかったんですが、結婚を機に諦めて就職しました。同級生の中に、江戸川乱歩賞を受賞した薬丸岳君という友人がいるんですが、ちょうど先日、吉川英治賞も受賞して。彼は18歳の頃からずっとシナリオライターを目指してバイトで生計を立ててたんですが、ようやく35歳の時に賞をもらってデビューしたんです。すごいですよね!

—ずっと夢を追い続けていた方が30代後半で花開くって、アラサー以上の世代にとって希望が持てるお話です。年を取ってくるとプレッシャーとかプライドが邪魔して、やりたいことにチャレンジしづらくなってくるって人も多いのかなと。

僕なんてデビューしたの39歳ですから(笑)。先日も、年取ったってぼやいてる38歳の部下に「俺なんてその頃にデビューしたんだから。まだまだ」って言ってやりました。オーディション番組に出た時、既に38歳だったんですよ。周りは10代とかばっかりで、子持ちのおじさんなんて当然僕1人。恥ずかしかったし、落ちたら格好わるいなって気持ちはありましたね。

—周りにはオーディション受けることを言ってなかったんですか?

会社にも誰にも言ってなくて。深夜番組だから誰も見ないだろってたかをくくってたんですけど、案の定、後日部長に呼び出されて「木山、何やってんの? お前歌手になりたかったのか」って(笑)。まあ、結局はすごく応援してくれたのでよかったです。

—オーディション中は違う緊張感もあったのでは? バレたら会社になんて言おうとか……。

ありましたね。でも本番中は緊張しないために、逆に会社とか仕事のこと考えて冷静に保とうとしてました。来週やらないといけないこととか、次の査定のこととか考えて(笑)。ライブで緊張する時は今でもやりますよ、敢えて仕事のことを考えるっていう回避策(笑)。

木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(後編)はこちら。

Facebook Twitter このエントリーをはてなブックマークに追加