木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(後編)

木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(後編)

2016年4月28日
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木山裕策が二足の草鞋を履き続ける理由(前編)はこちら。

「home」の第二章

—オーディション後、「home」のヒットから現在に至るまでは、どんな生活を送っていたんですか?

会社員と歌手の両立生活がスタートして以来8年間、ずっと週末だけは色々な所で歌わせてもらってます。ただ、この6年ほどはオリジナル作品を出してなかったので、そろそろ……っていう思いはずっとありました。で、転職したり休職して主夫生活を送ったり、そういった環境の変化がようやく落ち着いてきた頃、3年位前から「UTAMESHI」というライブイベントをスタートして。レストラン等の会場で色々な人の曲をカバーするっていう企画なんですが、その時に歌ったカバー曲を集めたのが今回の『F 守りたい君へ』です。

—同作には1曲だけ「旅立ち~home 2016~」(以下、「旅立ち」)というオリジナル曲が入っていますが、まさに「home」の続編にふさわしい、家族愛に溢れた曲ですよね。特に世のお父さんからの共感が凄そうです。

可愛いって言える時期を超えて子供と大人の話ができるようになったら、彼らの選んだ道を後ろから見守るのが、親としてできることだと思うんです。僕自身の子育ての形が変わってきて、そういう想いを歌で形にしたいって思ってた矢先に今回のアルバムの話を頂いて。で、1曲だけ新曲を入れていいって話だったので、「home」を作詞作曲して下さった多胡邦夫さんにお願いしました。彼とはデビュー以来ずっと家族ぐるみでお付き合いさせて頂いていて、お互いの子供や子育てに関する話もよくするので、「旅立ち」はヒアリングをして作ってもらったというより、そういった会話の中で生まれていった曲なんです。

—「正直なこと言えば子育てとかよく分からない」っていう歌詞とか、すごくリアルで正直だなって思いました(笑)。

昔は威厳のある父親像っていうのが理想だったのかもしれないけど、少なくとも僕の家は違いました。僕自身、オーディションに落ちて泣いてる姿とか子供に見られていますし(笑)、肩肘張らず自然な形でいきたいなって。子供が4人もいるからなのか、たまに僕「子育てのベテラン」みたいな感じで言ってもらえるんですけど全然! 悩みながらの20年間だったし、正直今も悩みながら子育てしてます。

—一方で大ヒット作品の続編というプレッシャーもあったのでは?

はい、生半可な気持ちじゃダメだなと。多胡さんにも「僕はこれで引退してもいい位の気持ちで作ったから死ぬ気で歌って下さい」と言われましたし。初めてこの曲を聴かせて頂いた時は涙が止まらなかったです。序盤の「丘の上から見送るよ」って歌詞のとこで、もうグッときてしまって。気持ちがすごく理解できたんですよね。

—ご自分の状況や心情ともマッチした曲が完成したんですね。引き続き「家族」というテーマですが、続編としてすごく良い形で次の段階に進んだものになっていますよね。

挫折せずに二足の草鞋を履く秘訣

—木山さんのように二足の草鞋を履いていたり、働きながら何かに挑戦している読者へ、アドバイスがあればお願いしたいのですが。

えらそうなことは言えませんが、これまでの8年間で気づいたのは、どっちか手を抜くとどっちもダメになっちゃう、っていう法則みたいなものですね。僕の場合は歌がうまくいってると仕事もうまくいきます。気持ちってきっと滲み出てきちゃうんですよね。大変だけど、どちらも精一杯やることがうまくいく秘訣です。会社にいる時は仕事のことしか考えず、割り切って没頭。逆に休日は歌や家族と過ごすことばかりで、会社のことは全く考えない。はじめの頃は切り替えが大変でしたが、大分慣れてきました。僕の場合は「家族がちゃんと生活できること」という軸が崩れると、他のものもぶれちゃうんです。そもそも家族がいなかったら歌も会社員もやってなくて、今もシナリオライター目指して自分のためだけに生きてたかもしれませんし。歌だって家族に声を残したいと思って始めたわけだし、家族がいなかったら「home」だって生まれなかったわけで……、全て家族というのが核にあってのことなので、それだけはこの先も変わりません。そういった信念や軸みたいなものがあれば、何だって両立できるんだと思います。

—参考になるお話、ありがとうございました。

自分の子供から次世代の子供たちへ

—では最後に今後の目標や展望を教えてください。

近い目標としては、できるだけ沢山の人の前で「旅立ち」を歌って伝えていくことですね。あとは最近、幼児虐待を失くすための活動に時々参加させてもらってるんですが、今後も続けていきたいです。歌には何かを変える力があると信じてるし、歌で何かを伝えていくというのが僕の大きな目標なので。虐待はすごく重いテーマだし、そのままだと中々伝わり難いのかもしれませんが、周りに知ってもらうきっかけとして歌という手段があってもいいかなって。こういうことが世の中で起こってて、関係ないと思ってる人の隣の家でもしかしたらそういう事件が起こっているかもしれないってことを知ってもらいたいです。子供たちが安心して大きくなっていける世界にするのが大人の責任。そのためになるんだったら、ずっと歌っていきたいと思います。人の気持ちを変えるのは簡単なことじゃないけど、歌を通してだったら伝わるものもあるかもしれません。

世の中を変えていくために必要なもの

これまで何度も自己分析してきましたが、僕にとっては会社の仕事の中で世の中を変えていくってすごく難しい。やっぱり生活を支えるために働くっていうのが前提なので。でも、もしかしたら歌の方では何かを変えられるかもしれないって思えてきたんです。歌を聴いてくれる方々の顔見てると、本当に何か変わりそうな気がしてくるんですよ。それでもし良い方向に皆で目を向けることができるんなら素晴らしいですよね。僕みたいなおじさんももっと頑張らなきゃ(笑)。僕は決して派手なタイプではないので、今後もコツコツと地道に頑張っていくと思いますが、声が出る内に夢を実現できればいいなと願っています。

人生は一筋縄ではいかない。だからこそ夢が叶える手段とか考え方はたくさんあっていいんじゃないかと思う。家族のために夢を諦めた男が、忙しいサラリーマン生活の中で癌と対峙。克服した後、子供に自分の歌声を残したいと歌手を目指して奮起し、大成功を収めるという物語。ドラマティックな美談に聞こえるが、実際に聞いた話は想像以上に現実的なものだった。そして物語は「大円団」のまま終わるはずもなく、当然ながらその後のストーリーも現在進行形で続いている。

その中で彼を支える原動力は、家族の存在と強い意志に他ならない。死ぬ気になれば何でもできるというけど、死を意識したことのある人間は本当に強いんだと思う。スティーブ・ジョブズが「今日が人生最後の日だとしたら、今日やる予定のことを自分は本当にやりたいのか考えた方がいい」なんてことを言ってたけど、その意見に賛同できるのなら、世間体とか羞恥心とかとっとと捨ててやりたいことを早くやった方がよさそうだ。木山さんの場合は家族が自分の軸になっていて、それはいい意味で重石になっているんだと思う。筆者自身、二足(三足か)の草鞋を履く身だからこそ、参考になる貴重な話を伺えて嬉しかった。

UICZ-4342 (1)

カヴァー・アルバム
F 守りたい君へ』(UICZ-4342)発売中
価格:¥3,240(税込)
レーベル:USM JAPAN
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社

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