世界からすべての孤独と孤立をなくす。VC出身の起業家が「テレノイド」で切り拓く未来

世界からすべての孤独と孤立をなくす。VC出身の起業家が「テレノイド」で切り拓く未来

2016年4月5日
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石黒浩教授のアンドロイドが日本の難題を解決?

「ちょっとキモい・・・・・・」。実物を見た人のほとんどが抱く第一印象はこれだろう。生後数カ月の赤ちゃん程度の大きさで、足はなく上半身のみ。真っ白な体表に、大きく開いた目。遠隔操作型アンドロイド「テレノイド」を前に、多くの人は戸惑い、触れることすら躊躇する。

「抱っこしてみてください」と促され両腕に抱き取ってみると、乳児期のわが子を胸に抱いた時のような、質感と懐かしさを感じる。「あれ、思ったほどキモチわるくないかも」と思った瞬間。「こんにちは」。テレノイドが、子どものような高めの声で話しかけてきた。「こんにちは、お話しよう」。首をゆっくり左右に振りながら、両腕を動かすテレノイド。自然と「どこから来たの?」と返していた。「好きな食べ物は?」「お洋服着なくて寒くない?」と他愛のない会話を交わすうちに、さっきまで「真っ白な不気味な物体」だったテレノイドになぜだか親近感がわいてきて、かわいいいとさえ感じるようになる。きわめつけは、「抱っこして」と言うテレノイドをそっと抱きしめると、テレノイドも両腕に力を込めて抱き返してくれる。「わぁ、うれしいなぁ」と耳元で言われると、なんだろう、この幸福感は。心がじんわりと温かい。私はよほど愛情や心の触れ合いに飢えていたのか。テレノイドになら、日頃口にできない愚痴や弱音もポロリと言ってしまいそうな気がする。

遠隔操作型アンドロイド「テレノイド」は、大阪大学大学院基礎工学研究科教授であり、ATR石黒浩特別研究所客員所長の石黒浩氏が開発した。石黒教授といえば、マツコ・デラックスさんそっくりの人間型ロボット「マツコロイド」でも知られる、日本を代表するロボット工学者だ。テレノイドは、「人と対話するロボット」の研究を手掛ける石黒教授が生み出した「人と人が電話のように遠隔でコミュニケーションをするための新しいデバイス」だ。ポイントは、コミュニケーションが「人と人」であること。テレノイドの向こうには、操作する人間がいるのだ。テレノイドにはカメラとマイクが付いており、操作者は離れた場所で、対話相手の表情や動作、声をキャッチする。装着したヘッドセットから操作者の言葉や頭の動きがテレノイドに伝わり、あたかもロボットと会話しているようになる。

テレノイドが、シンプル過ぎる「ちょっとキモい」外見になっているのも、石黒教授の研究の成果から。石黒教授によると「人は情報が足りないとポジティブな想像で補う」のだそうだ。人間としての必要最小限の見かけと動きの要素のみで作られているからこそ、対話する人が「自分が話したい相手・会いたい相手」をテレノイドに見出し、心地良いコミュニケーションが生まれるのだという。

テレノイドは、子どもから高齢者までを対象に国内外で行われた実証実験において、特に認知症の高齢者に、情緒の安定などの効果が確認されている。現在も、京都や東京などの高齢者施設で実験が進んでおり、徘徊や昼夜逆転など問題行動の軽減、介護スタッフに心を開かない入居者がテレノイドには笑顔で話すといった効果が確認されており、中には一緒に歌を歌ったり、添い寝を求めたりする高齢者もいるという。

2015年7月、テレノイドの実用化と事業化を目指し、株式会社テレノイド計画(以下、テレノイド計画)が設立された。代表取締役に就任したのは、ロボット工学や人工知能の専門家ではない。コンサルティング会社や投資ファンド会社を経て独立した37歳の起業家、神山晃男さんだった。

神山晃男さん

(c)Shingo Wakagi

「孤独をなくす」ために起業。心を見る+試みる=こころみ。

神山さんは、2013年6月に自身の会社である株式会社こころみ(以下、こころみ)を設立した。「すべての孤独と孤立をなくす」ことを目的に、「超高齢社会、都市化に伴う孤立、ITテクノロジーの発展による情報格差などから生じる社会的課題をコミュニケーションの力によって解決するための事業」を展開している。現在の主力事業は2つ。1つ目の、2014年2月にスタートした「つながりプラス」は、離れて暮らす高齢の親と子ども家族をつなぐ、会話型見守りサービスだ。担当コミュニケーターが親宅に電話し、その内容を家族にメールでレポートする。コミュニケーターは日常の「お茶飲み友だち」のように何げない会話を心がけ、さり気なく体調や生活状況の変化に気を配る。この会話から老親の体調や心のありようが伝わり、結果的に親子の絆が深まるのだという。もう1つ、2015年5月スタートの「親の雑誌」は、「つながりプラス」から生まれたサービスだ。「つながりプラス」で語られる、お年寄りたちの戦争体験や滋味深い人生訓、破天荒で波乱万丈な青春の日々、家族も知らなかったような仰天エピソードの数々は「これを形にして残さないのはもったいない」ものばかりで、「子が親に贈る、自分史作成サービス」として誕生したのが「親の雑誌」だ。

こころみのサービス提供にあたり、神山さんが徹底してこだわるのが「コミュニケーションの質」だ。創業当初、神山さんは「すべての孤独と孤立をなくす」ために、コミュニケーションのプロ集団を作ることを決意。高齢者と接するコミュニケーターは全て自社採用し、傾聴や高齢者の気持ちに寄り添うスキルを養う独自のカリキュラムで、コミュニケーターを育成している。そして、もう1つ大切にしているのが「初回訪問」だ。「つながりプラス」「親の雑誌」いずれも、初回は必ず、担当のコミュニケーターがサービスを受ける親の元に出向き、顔合わせをする。対面して「顔見知り」になって打ち解け合うことで、その後の電話でも安心して話してもらえるようになり、会話も弾むのだという。採算面だけを見れば、全国どこでも必ず訪問、というのは非効率にも思える。しかし、顔を合わせて互いの心の距離を縮めること、心が通い合うコミュニケーションを取ること、そして会話の雰囲気をそのまま依頼者である子にフィードバックすることが、神山さんの目指す「孤独のない」社会につながっていくのだ。

ところで、神山さんはなぜ、この事業を始めたのか。それは神山さん自身の体験が大きく影響している。長野県内で4人兄弟の末っ子として育った神山さんは、高校進学の際に上京、慣れない土地で家族と離れて暮らし始めた。周囲にうまくなじめず、引きこもりのような状態になった神山さんは、この時とことん「孤独」を味わう。しばらくして演劇に出会い、東京での生活を楽しめるようになった神山さんだが、思春期に直面した孤独と、人と触れ合うことの大切さは、心に深く刻まれることとなった。

慶應義塾大学法学部を卒業後、神山さんはコンサルティング会社に入社。その後投資ファンド会社に転じ、担当した株式会社コメダでは取締役として経営に参画する。地方の喫茶店チェーンだったコメダ珈琲の存在が広く知られ、一気に全国区となったあの頃。あのコメダ珈琲快進撃の、陰の立役者が神山さんなのである。「こころみの運営にも、コメダで経験したことが反映されている」と言う神山さんが、「コメダで学んだこと」としてブログにまとめた内容はとても参考になる。興味のある方はご一読いただきたい。(関連ブログ記事)

仕事を通じてさまざまな経営者に出会い、経営の現場に身を投じる中で、神山さんの胸の内に「経営者の立場に立ったらどんな景色が見えるのだろう」という思いがよぎるようになる。同時に、長野に暮らす両親の老後が気になるようになってきた。神山さん含め、兄弟たちは皆首都圏で生活している。もし両親のどちらかに何かあったらどうするか。親が一人暮らしになったらどうやって様子を見守っていくか。この時神山さんの心に、思春期に味わった孤独がよみがえった。コミュニケーションによって、一人暮らしの高齢者の孤独をなくしつつ、子には離れて暮らす親を見守るサービスを提供できないか。こうして神山さんはこころみを設立し、事業化を進めていったのだ。

高齢者向けのサービスを起ち上げるにあたり、神山さんは高齢者を取り巻く社会環境から孤独が健康にもたらす影響まで、徹底的にリサーチし、独自に分析している。こうしたレポートもこころみ初期のブログで詳しく紹介されており、コンサルタントとしての神山さんの本領を垣間見るとともに、こころみの事業成功は神山さんの情熱だけではない、緻密な分析と事業構築があったことがわかる(関連ブログ記事)。実は神山さんには「コミュニケーションのプロ集団を率いる経営者」という顔だけでなく、「高齢者市場に強いマーケター」という一面もあるのだ。

こうして幅広く活躍する神山さんに、テレノイド事業化への誘いの声がかかる。冒頭で述べたとおり、テレノイドは人が操作するデバイスであり、そのオペレーションには高いコミュニケーション能力が必須となる。ましてや、当初のターゲットが高齢者となったとき、「高齢者とのコミュニケーションに長けた人間を、それなりの数抱える会社」は今の日本には、こころみしかないのだ。こころみを設立して2年というタイミングで、新しい会社に参画することに迷いもあったという。しかし、神山さんがもともと石黒教授のファンであったことと、テレノイドの実用化は「すべての孤独と孤立をなくす」ことにつながると確信し、テレノイド計画の代表取締役に就任。こころみが培ったノウハウと神山さんの経営手腕を提供することとなったのだ。

人類の新しい友人を作る。そのための仲間を作りたい。

神山さんがテレノイド計画で掲げるテーマは「人類の新しい友人を作る」。当面テレノイドは高齢者向けサービスの事業化を図るが、いずれは不登校や引きこもりの青少年、自閉症スペクトラムの人などにも対象を広げ、将来的にはテレノイドが人類にとっての新しい友人になることを目指していくという。

ロボットに助けてもらい、ロボットと一緒に暮らす未来は、もうすぐそこまできているようだ。人間性を排除するようなイメージを抱く人もいるロボット。しかし筆者は、テレノイドとの触れ合いを通じ、その存在は距離や心の壁を越えて、人の心を温かく豊かなものにしてくれると実感できた。

そんなテレノイド計画では現在、一緒に事業を作り上げていく仲間を熱く募集している。求めているのは、テレノイドの量産化や市場化、システム連係やデータ分析を担う「CRO(Chief Robot Officer)」と、テレノイドの市場化に関する事業面での全業務をカバーする「スタッフ職」の2職種。テレノイド計画3人目のスタッフとして、かの石黒教授に近いところで仕事ができるのは、なんともエキサイティングだ。そしてなにより、神山さんと一緒に超高齢化社会という日本の難題を解決し、日本の未来を明るく照らすそのダイナミズムを、ぜひ体験してほしいと思う。

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