そんなことないと言うかもしれないが、ジョナサン・アイブは恵比寿にいる

そんなことないと言うかもしれないが、ジョナサン・アイブは恵比寿にいる

2015年11月16日
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※ この記事は eleven*nines PR ブログからの再掲載です。

最近よく行く恵比寿の料理屋さんがある。

お気に入りは鯖の塩焼き定食で、身がすごく大きいうえに脂がとっても乗っていてうまい。小鉢も気がきいているし、どうぞご自由にと置かれた大根おろしは好きなだけ使うことができる。立地も出てくる料理も文句なしの素敵な店だ。

なにより素晴らしいのはその張り詰めた空気感だ。いつも空気がピンとしている。お店に入った瞬間から、名人同士の対局の終盤戦のような雰囲気。1つのミスも許されない。油断した瞬間に斬りかかられるし、一瞬も緊張を解くことは許されない。

お店の回転が非常にはやく、ちゃんと見たことはないけど、たぶんランチは毎日8回転くらいしているだろう。座席数は25ほどだろうか。店員ひとりひとりの動きは非常に最適化されていて、無駄は極限までそぎ落とされている。それに伴い、必然的に客の行動も最適化されることが求められる。席についてから「えっとぉ~わたしは~」なんてやっている暇はない。席に着く前に決める。この店では客は店の戸を開けた瞬間、完全に最適化された動きで迫りくる店員からの「ナニニシマスカ?」の問いに間髪入れずに答える必要があり、それができない客はお店に入るその前からふるいにかけられることになる。

先週ここの店にいったとき、とんでもない事案を目撃した。ここの店には「よくばり定食」という定食があり、通常の定食の焼き魚に加え、刺身がついてくるという夢のような内容となっている。あろうことか、その客は「刺身が食べたい」と店員に要求しだしたのである。全員が思っただろう、「愚か者がまた1人死んだ…」と。そして「それができるならおれもやりたい」と、とも。そしてこれもまた全員の思った通り、その要求はあっさり却下され、まったく違う定食を頼んでいた。そういうことは絶対にできないんですよここのお店では。なぜなら最適化されすぎているから。最適化されているから決まっていること以外は絶対にやらないし、折れることはない。

無事注文をすることができたら「店員の指示に従って」着席する。もし誤って(もしくは意図的に)違った席に座ったらどうなるか。この店での力関係がどうなのかをたっぷりと体に味あわされながら、最初に指示された席につくことになる。注文ができたことに安堵して集中を切らしてはいけない。出る杭が決まって打たれるように、このお店では調子に乗ってはならない。注文ができたからと言って、店主の次の言葉も聞き漏らさずに正確に耳を傾ける必要がある。

ここまでくればその瞬間はすぐやってくる。店員たちの最適化された動きで、どんなに混んでいても注文の品は8分ほどでやってくる。これが本当に素晴らしい。注文して席について10分かからないという信じられないスピード感。あるいは、その張り詰めた空気にあてられ、客がある種の緊張状態になることで、己の体感時間を圧縮しているのかもしれない。

注文の品が目の前に届いたら、黙々と食べる必要がある。一緒にきた人と話ても良いが、盛り上がりすぎてはいけない。店員はもちろんだが、客も同様に他の客を監視していて、粗相は許されない雰囲気が充満している。会話はそこそこに、全力で舌鼓していることを両者に向けてアピールしなければならない。

お会計は優秀な宴会の幹事のように、全員の会計をまとめておこなう必要がある。店に最大の敬意を払いつつ、そのドアを出る最後までスマートに振る舞いたいものだ。間違っても大人数で押しかけて、さらにバラバラに会計を済ませるというパターンは避けたい。1080円の定食に対し、1000円2札しか持っていないというパターンも同様だ。最低でも1000円札1枚と100円玉は確保しておいた方がベターで、この2点を犯して無事帰れる保証はないだろう。

と、いろいろおどろおどろしいこともたくさん書いたが、本当においしいお店なので是非行ってみて欲しい。最近ぼくは肉より魚の方が好きになってきたが、肉好きも大満足な1店だろう。
あと、店主が、Appleはデザイングループ担当上級副社長、サー・ジョナサン・アイヴ氏に非常に似ている。

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