捕鯨を巡る世界的論争を追う、本格ドキュメンタリー映画を日本人監督が制作中

捕鯨を巡る世界的論争を追う、本格ドキュメンタリー映画を日本人監督が制作中

2015年10月19日
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ニューヨーク在住の日本人監督、佐々木 芽生(めぐみ)氏が、国際的な捕鯨論争について賛否を超えて追ったドキュメンタリー映画を制作中である。

私たちがイメージする「クジラ」

「捕鯨」「鯨肉」と聞いて、あなたは何を連想するだろうか。捕鯨への過激な抗議活動で時おり世間を騒がせている反捕鯨団体「シーシェパード」を思い浮かべる人もいるだろうし、あるいは「鯨の竜田揚げ」「くじらベーコン」などを連想する人も少なくないかもしれない。伝統的な鯨食を除き、第二次世界大戦後の食糧難を補うため、政策的に広められた鯨肉。1970年代までは全国的に給食で扱われていたし、現在でも地域によっては供されている。世代や地域による差はあれど、鯨肉は元々私たちにとって身近な食材であったことに疑う余地はない。しかし現在に至っては、鯨肉を食べたことがない、売っているところすら見かけたことがないという若者は多い。鯨にあまり興味も未練もない日本人も皆無ではないのだ。

国際社会を席巻する捕鯨への非難と、映画『ザ・コーヴ』の存在

国際的には1930年代以降、捕鯨の規制が厳しくなり、捕鯨から撤退した国がほとんど。こうした国際社会の動きから、捕鯨やイルカ漁を行う日本に対して、近年並々ならぬ非難が集中しているのが現状だ。捕鯨への非難といえば思い出されるのは、映画『ザ・コーヴ』(2009)である。古式捕鯨発祥の地、和歌山県太地町(たいじちょう)での追い込みイルカ漁について、反捕鯨の立場からセンセーショナルに取り上げ話題となった作品だ。日本では、盗撮による映像や作為的な演出があるという理由から、公平性を欠く作品だと問題視する声も多かったが、強いメッセージ性と制作者らの熱意によって、2009年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞するに至った。

同作の日本公開にあたって上映取りやめが相次いだが、その根底には「偏向的に編集された内容のものは見る価値がない」という考えが少なからずあったのかもしれない。また、1600年代から鯨・イルカ漁を続けてきた太地町、ひいては日本の文化に理解を示す姿勢がまったくなかったことにも問題があるだろう。だが結局のところこの映画は、ドキュメンタリーとして国際社会で地位を確立し、日本への非難を新たにさせるだけの力を持っていたのである。

佐々木監督が抱くクジラ映画への志とは

ジャーナリスト、NHK ニューヨーク総局のキャスターなどを経て独立した佐々木監督は、米ナショナル・ギャラリーに多数のアートコレクションを寄付し有名になった夫妻を題材にしたドキュメンタリー映画『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』で、米国のハンプトン国際映画祭・最優秀ドキュメンタリー作品賞を受賞。日本でも同映画の資料が高校の英語教材に掲載されるなどして高い評価を得た実力派だ。

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彼女が今回のドキュメンタリー映画制作を作るきっかけとなったのは、やはり前述の映画『ザ・コーヴ』の存在。同作を鑑賞し、偏った視点ながらもストーリーテリングの巧妙さに説得力を感じ、衝撃を受けたと言う佐々木監督は、観た人が捕鯨問題について多角的に考えることができるよう、バランスのとれたドキュメンタリー映画を制作したいと考えたようだ。日本側の意見も含め、捕鯨賛成派/反対派、両方の声に耳を傾けた映画、そして食文化や伝統、人間と生き物の共存、異文化の衝突という様々な視点から考えた映画の完成を目指しているという。

佐々木監督は2010年にイルカ漁の舞台である太地町に赴き、取材と撮影を開始。5年に渡って何度も同地を訪れる中で、町民と反捕鯨活動家たちとの緊張状態や、双方それぞれの立場に立つ人々の日常を目の当たりに。さらには国際捕鯨委員会が開かれたモロッコやスロベニアへも足を運び、各国の政府代表や環境 NGO、科学者や歴史家にも話を聞いたという。「偏った情報をもとにした感情的、政治的な議論ではなく、映画を通して健全な対話が生まれることを願います」と話す佐々木監督の情熱は、これらの経験をもとに培われたものである。

 

鯨だけにとどまらない、国際問題を考える

私たちの預かり知らぬところで、今も争いの火種は育ち続けている。実のところ、捕鯨の実態についても国際社会の動向についても、私たちにもたらされる情報は、問題の規模に比べてごくわずかであり断片的だ。多くの日本人は鯨との縁のなさから国内外どちらの動向にも興味が薄く、それ以外の外国人は、彼らに理解できる形で発信される情報の少なさから、鯨に関する日本の主張や文化を知る手立てがほとんどない。

たとえば、バッシングを受け続ける太地町のイルカ漁だが、用途はなにも食用ばかりではなく、捕獲された生きたイルカの半数程度が、中国や韓国、ロシアなど海外へ輸出されていて、これは世界各地の水族館に需要があることを示している。

(出典 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG08H0Y_Y5A600C1000000/)

この事実はまた、日本動物園水族館協会の、太地町からのイルカ購入とも関連があり、これに基づき同協会が世界動物園水族館協会から除名勧告を受けた、別の問題にも波及する。

(出典 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG11H1U_R10C15A5000000/)

(出典 http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG10H48_Q5A710C1CR0000/)

ことは鯨だけの問題ではないのだ。各国の政治的見地、利権、価値観、自然観、国民性の違い…あらゆる観点が複雑に絡み合い、まともなリテラシーを持っていても、情報の根底にある別の思惑を判読するのは難しい。今こそ、佐々木監督が目指す「バランスのとれた多角的な」ドキュメンタリーが求められているのではないだろうか。

佐々木監督のもとには、シーシェパード関係者から誹謗中傷のメッセージが送り付けられ、妨害はすでに始まっている。また反捕鯨の意見が多数を占めるニューヨークで生活する同監督にとって、こうした映画を撮ることは、身の危険にすらさらされかねない挑戦なのだ。

映画の制作支援金を募っていたクラウドファンディングは既に目標額に到達。主な撮影を終えている段階だ。来年初頭の海外映画祭でのプレミア公開を目指し、2016年の夏には日本での公開が予定されているが、映画の詳しい過程や進行状況については、同監督のブログにて登録できるメールマガジンで知ることができる。なお、映画の概要や監督のコメントについては、国内最大級のクラウドファンディング・プラットフォーム MotionGallery 内のプロジェクトページに掲載されている。

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