【SOCAP15 キックオフイベントレポート(中編)】「より良い社会の実現」が配当される、社会的インパクト投資とは?

【SOCAP15 キックオフイベントレポート(中編)】「より良い社会の実現」が配当される、社会的インパクト投資とは?

2015年7月1日
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“世界をもっと持続可能で、エキサイティングなものに”

Black&White

(写真提供:Impact HUB Tokyo)

2013年2月11日、Impact HUB Tokyoは、世界最大規模のグローバルなコワーキングスペース「Impact HUB」の国内初の施設として、東京・目黒にある440平米の印刷工場をリノベーションしオープンした。「Grow(育つ)・People(コミュニティ)・Space(場)」という3つの観点を重んじ、”志あるチェンジメーカーが世界とつながる秘密基地”をコンセプトに、起業家が集まる”コワーキングスペース”という枠組みを超え、世界に変革をもたらし、互いに学びや知識、経験、ネットワークのシェアを実現する有機的なコミュニティを創ることを目指す場として機能している。

 

前編では、Impact HUBの構造やその取り組みをする上でのマインドについて触れたが、今回はImpact HUB Tokyoが実施している「SOCAP15キックオフイベント」の背景にあるSOCAP、社会的インパクト投資、ソーシャル・インパクト・ボンドについて紹介したい。

“SOCAP(Social Capital Markets)とは?”

SOCAP=Social Capital Marketsとは、「社会にインパクトを生む起業と投資を実践するリーダー達の為の参加型カンファレンス」である。世界中から2,000人を超える起業家、投資家、財団、企業 家、政府関係者がサンフランシスコに集結し、起業と投資の実践から得た学びを共有する「場」で、セッション数、国籍、日数ともに本分野・最大規模の国際会議である。(Impact HUB Tokyoは、2012年からJapan Teamを結成して現地へ送り込むという活動をしており、「SOCAP15キックオフイベント」はその参加メンバーを募り、そしてこのイベントの良さを知ってもらうという目的がある。)

“社会的インパクト投資とは?”

では、そのSOCAPがその活動を通して促進させようとしている、社会にインパクトを生む投資=「社会的インパクト投資」とは一体何なのか。

一言でいえば、「社会問題解決と収益の両立を目指す投資」である。この投資運動が促進し始めたキッカケは、2009年にJPモルガンが「インパクト投資」という新しい金融商品についてレポートを記載したことから始まる。金融危機の前後に新しい金融分野として「インパクト投資」は拡大し、特に、金融機関に勤めていたがミッションのある投融資に自分の軸を移したいと考える人たちが、金融機関を退職したあと、一気にこの「インパクト投資」の分野に流れ込んできた。それゆえ、優秀な人材が集まり、海外では様々な理論が確立するなど、活発な動きを見せた分野だ。

その中でも昨今、日本で話題になりつつあるのが「ソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)」である。「インパクト投資」の分野の中で、特に民間の投資家だけでなく、行政が関わり、リスクを分担しあう形で、「インパクト投資」を促進するスキームとして、注目されている。

そもそも、SIBにここまで日本で火がついたのは何がきっかけだったのだろう?それは、2年前の6月、主要8カ国(G8)首脳会議が開かれた際の、キャメロン英首相が各国政府・投資家へ発した提言に因るところが大きい。その提言内容は、「収益をあげながら社会的課題の解決を継続できる社会的企業の育成や環境整備」「リスク、リターンに加え社会的インパクトを考慮した投資の推進」であった。そして、その動きが活発化することによって、「年々複雑化する社会的課題に対する解決領域において大きな価値観転換が起こるだろう」と、解説されていたのだ。これを機会にイギリスは世界で最初のSIB案件を立ち上げるに至り、それがこのスキームの可能性を開花させた。

社会的インパクト投資が生まれた行政的背景

なぜキャメロン首相並びに各国の行政が社会的インパクト投資を促進しようとしているのか、そこには至極シンプルな背景が存在している。

詰まるところ、先進国の行政における財政難がこの社会的インパクト投資を必要としている最大の理由だろう。英国においては2010年頃から提言を行うまでの間におよそ10兆円以上の予算削減が行われ、業務の見直しが徹底されていたという継続的な背景があった。そして、課題解決のためのノウハウ量が、日々湧き出てくる課題に対して追いつかないため、行政だけでその全てを対処することは非常に難しいという現実的な問題にも頭を抱えていた。

そこで、効率的かつスピーディに社会課題を解決していくためにも、民間資金・民間企業・社会的企業の力を借りる発想が創出されたのだが、課題解決をお願いする上でも、そのキャッシュフローとして各々がきちんと収益化できる様に考える必要がある。そこで、「投資家の資金で社会的起業が課題解決する」それによって、「削減できた行政コストの一部を投資家に還元する」というフローが創造されたのだ。

社会的インパクト投資はベンチャーキャピタルの大型投資によるハイリターンを狙うといった様なモデルではないため、そこまで投資に対して高い利益は期待できないが、社会課題の解決を推進・促進していくことで、「より良い社会」が実現される、という事実が配当される。ごく一部に限定された利益配当ではなく、社会全体への配当、そして受託した企業・起業家・投資家にも幾ばくかの収益が入ってくることを考えれば、前編でも述べた「意思をもったお金の流れ」を参画者全員が体感し、体現できること自体、とても価値のあるアクションなのではないだろうか。

「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)」とは何か

SIBとは、行政、社会的投資家、NPO等非営利組織、評価機関が連携して、社会的成果に基づく質の高い行政サービス提供を実現することを目的とした「官民連携のインパクト投資の手法」である。

(動画出典元:G8インパクト投資タスクフォース 日本国内諮問委員会)

このSIB案件の第1号となったのは、イギリスにある刑務所ピーターボロの事案だった。

本刑務所において、出所した元受刑者の再犯率が高いため、その再犯率の引き下げを実施するための資金を投資家から集め、そして起業家・民間企業・社会的企業がそのプロジェクトを受託し、その資金を元手に再犯防止教育を実施したというものである。17の財団・投資家からおよそ8億円の資金を調達し、5年間に渡り事業を実施。その結果、10%以上の再犯率低下が確認され、再犯率が下がったことによって刑務所が削減できた行政コストの一部を投資家に還元するというフローが成立した。

本事案において実施されたプログラム概要と社会インパクト評価(便益算出)のロジックについては、下記をご覧頂きたい。

【受刑者の社会復帰プログラム概要】
1年未満の3000名の軽犯受刑者を対象に、 刑務所への入所時から退所後も含め、心理セラピー、職業訓練等の社会復帰 支援施策を実施、再犯防止に取り組んだ上で、退所後1年間の再犯・有罪判決率を持って成果を測っていく。

【社会インパクト評価(便益算出)のロジック】
再犯率の低下による司法コスト、収監コスト等の低減による便益を算出、10%以上の低下を元本償還の条件とし、最大IRR(内部収益率(Internal Rate of Return、内部収益率)13%のリターンを提供する。(2010年に開始、2013年の中間評価では、プログラム開始当初から、全国平均 に対して20%近い再犯率の差異が見られたそうだ。)

 

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(画像出典元:G8インパクト投資タスクフォース 日本国内諮問委員会)

SIBに存在する高いハードル

前述した様に、SIBが成立し、価値創出できた際のリターンは社会全体が対象になるため非常に有益なものになるが、反面、この仕組みの中には高いハードルが存在している。この仕組みを成り立たせる上で、クリアすべき前提条件があるのだ。

  1. 一定規模のNPOや社会的起業が成長しているという事実があること
  2. そしてそれらが行政コストの削減能力を保持していること
  3. 社会的リターン測定を行う上で、SROI(social return on investment、社会的投資利益率)の算定基準が制定されていること
  4. ハイリスクに耐えうる体力を持つ財団や投資家となる民間組織が存在すること

上に挙げた4つの項目を全て満たさなければ、この仕組みは成立しない。特に、インパクト投資の中でも、SIBは行政が絡むがゆえに、投資先の団体や企業の正当性がきちんと必要となり、かつ、正当性のあるSROIの基準を整えるために多大な時間と労力がかかるということが、このハードルの高さをさらに引き上げている。日本のケースで考えると、欧米諸国に比べてNPOの成長率や社会的な位置付けが低い点や、ソーシャルセクターへの投資を行う財団の母数が少ないといった点もあるため、現状かなり困難な状況にあると言えるだろう。

この様な現実的な問題としてのハードルはあるが、世界でのSIB導入数については20件程で、爆発的にその件数が増えているわけではないにしても、徐々にこの動きは広まってきていると言える。例えば米国のマサチューセッツ州とニューヨーク市では定食車窓向け住宅や職業訓練所を対象に投資銀行が出資していたり、カナダのサスカチュワン州ではシングルマザー支援への投資、イギリスでは先ほどのピーターボロをはじめとして児童養護施設などにも投資を行っている。近年では、オーストラリアでも児童犯罪防止・児童保護・里親プログラムを対象とした投資がさかんに行われている様だ。

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(画像出典元:G8インパクト投資タスクフォース 日本国内諮問委員会)

日本におけるソーシャルセクターの成長を促す拠点

ここ日本にもImpact HUB Tokyoという一連の活動の拠点ができたことによって、よりソーシャルセクターにおける成長は促され、情報が国内に拡散し共有・取得できる場所が今後じわじわと増えてくるのではないだろうか。

実際、Impact HUB Tokyoを通じて過去に参加した人たちの輪が広がりつつあり、日本からは日本財団ACUMEN三菱商事復興支援財団などの財団、ピースダイヤモンドソーシャルカンパニーといった社会的起業家の他、ベネッセホールディングスPanasonicといった大企業の社員もその参加者に名を連ねている。今年の5月にはG8タスクフォース日本財団が共催で、国内初の社会的インパクト投資に関するシンポジウムを開催し、国内でも大きな注目を集め話題となるなど、多方面での動きが活発化してきている。

課題解決のために活動する企業・起業家・投資家のアクションがより活発化し、インパクトを引き起こすという局面が、今まさに、ここ日本でも大きな波として存在しているのだ。


Impact HUB Tokyo

〒153-0063 東京都目黒区目黒2-11-3 印刷工場1階

Hours of operation 平日 9:00-22:00 土日 10:00-20:00

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